カテゴリ:刑事事件のこと( 6 )

捜査手続きは人質手続き

「捜査手続は人質手続」

こんばんわ。
またもやの沖縄出張から帰ってきました。


刑事訴訟法上の身柄拘束は、次のように規定されています。
まず、捜査機関は被疑者を逮捕した場合、その後も身柄拘束が必要と判断すると、最大72時間以内に、裁判所に対して勾留という手続で被疑者の身柄拘束をするよう請求します。
裁判所は、この請求に対して被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないか、嫌疑は相当かなどを検討して、勾留を認めるかどうかの決定をします。もし、勾留が認められると、原則10日間、その後の延長が認められるとさらに10日間、身柄拘束が行われることになります。
そして、検察はこの間に起訴するかどうかを決定することになるわけです。

あくまでも一般論ですが、現在の刑事手続にあっては、逮捕が認められた場合、その後に引き続く勾留はほとんどの場合に認められます。
その勾留決定に対する異議申立て(準抗告と言います)は、ほとんどが認められません。
そして、その後の勾留延長が請求された場合は、これもまたほとんどが認められてしまいます。

この身柄拘束が続く間、被疑者とされた人は捜査機関からの取り調べを受け続けます。
身柄を拘束されると、四六時中、捜査機関の監視下に置かれます。弁護士以外とは会わせてもらえないこともあります。もちろん、取調べの時は警察(または検察)と一人で対峙しなければなりません。

自分は想像するしかありませんが、非常に過酷な状況に置かれ続けます。
そんな中で、自分の主張をきちんと貫くことができる人は、そう多くないと思います。
早く身柄拘束から脱したいがために、やっていない罪を認める人もいるでしょうし、そこまでいかなくとも、自分に不利な事情を認めてしまう人も多いと思います。

弁護人としても、がんばって自分の主張を貫いてもらうべきなのですが、ご本人の仕事や家族のことを考えると、そればかりも言っていられない場面もあります。
まさに、人質に取られているがために、主張を制限せざるをえない。
場合によっては、外に出してもらいたいがための虚偽自白をしてしまう可能性もあります。

少なくとも、逃亡や証拠隠滅のおそれが抽象的に存在するだけで身柄拘束を認めるのではなく、具体的な「おそれ」があってはじめて身柄拘束を認めるようにする、などの根本的な制度改善が必要でしょう。

そんなことは、はるか以前から指摘され続けてきていますが、今回の裁判員裁判導入の「改革」に際して、改善策がとられることはありませんでした。


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by lawyer-nishikawa | 2009-10-15 08:27 | 刑事事件のこと

裁判員裁判 5~裁判で被害が広がる?

「裁判員裁判 5~裁判で被害が広がる?」

すでに強盗強姦事件などの性犯罪も裁判員裁判として予定されているようです。
ただ、この性犯罪を裁判員裁判の対象とすることについて、日弁連の犯罪被害者支援委員会などが検討している問題点で気になるものがありました。

裁判員裁判対象事件のうち、約2割が強姦致死傷罪や集団強姦致死傷罪といった性犯罪で、その数は年間500~600件ほどになると予想されているそうです。

ところで、裁判員候補者は事件関係者と利害関係があってはいけないので、選任手続きの過程で候補者に質問を行うなどして、事件と関係しないかを確認する手続きがあります。
もし、性犯罪の場合でも他の一般事件と同じように、被害者の氏名や住所を候補者に知らせて、関係があるかを尋ねる、などと言うことになった場合、被害者にとっては大変重大な事態となってしまいます。
候補者の段階では守秘義務もないので、被害者の氏名や住所をした候補者が、どこで話をしようとも守秘義務を理由に制約することはできなくなります。
現在、被害者団体などの働きかけにより、最高裁はできるだけ被害者の秘密が守られるように指導しているようですが、どこまで実効性があるのかは未知数です。

そもそも、性犯罪の被害者は事件で被害を受けるだけでなく、裁判の場でも自分の被害が晒されることによって二次被害を受けることになります。
性犯罪の裁判を経験している職業裁判官の審理でも二次被害が言われるのに、そういった経験のない裁判員による審理ならば、不用意な質問などによって、より大きな被害を被ると考えられます。
結果として、被害者が告訴を控えるなどして、認知されない事件が増えていくことも予想されます。

性犯罪がもっともプライベートな部分に被害が生じた事件であることからすれば、「民衆が参加する」裁判員裁判には馴染まないとも考えられます。

「被害者の権利」「被害者保護」というのであれば、こういった点にも目を向けて二次被害を回避するようにしていくべきでしょう。

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by lawyer-nishikawa | 2009-08-26 23:21 | 刑事事件のこと

裁判員裁判 4~ウソの自白が見抜けなくなる?

「裁判員裁判 4~ウソの自白が見抜けなくなる?」

今日も裁判員裁判について。

最高裁によると、裁判員裁判においては、裁判の期間を短縮し、裁判員の負担を軽減

するため、証拠を平易化、簡略化・要約化し、厳選する必要があるとされています。
検察側は、証拠方法はベストエビデンスを厳選して請求するべきであり、証拠の総量

を可能な限り削減する必要がある、としています。

ところで、冤罪事件というものがあります。
真実は犯人ではないのに、ウソの自白をさせられたり、物的証拠を捏造されたりして、犯人に仕立て上げられ、裁判でも見抜けずに有罪が確定してしまう。
その原因の多くは、強要された自白がウソであることを見抜けなかったことにあります。

では、ウソの自白はどういう方法で見抜くのか。

いくつかありうるのですが、取り調べられている人が自白をした場合、「私は~をしました」的な文体で調書に記録されます。
この調書を丹念に洗いなおしていくのが一つの方法です。

ウソの自白ですから、何度も何度も聞かれているうちに、真犯人なら間違えようがない事実について、不自然に訂正したり、あいまいになったり明確になったりすることがあります。
いくつもの調書を読み返していくうちに、このような部分を見つけ出していき、矛盾点をあぶり出すというものです。
これは、いくつもある自白調書の全てを通読していくことでしか、見つけだすことはできません。

しかし、上記のように証拠の総量を削減し、例えば自白調書も最後に記録したものだけしか、裁判上、出てこないことになると、全ての自白調書を見ることなく判断しなければならないことになってしまいます。
もちろん、証拠の絞り込みは弁護人も参加する公判前整理手続で行われるので、問題ないのではないかとの意見もありうるとは思いますが、裁判員が実際の自白の変遷、経緯を見なくてよいのかという疑問は残ります。

証拠の平易化、簡略化・要約化に潜む、問題点の一つだと思います。

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by lawyer-nishikawa | 2009-08-22 16:08 | 刑事事件のこと

裁判員裁判について 3~ドラマのようにいかなくなる?

「裁判員裁判について 3~ドラマのようにいかなくなる?」

今回も引き続き裁判員裁判について。

刑事法廷ドラマには、証人尋問で驚愕の証言を新たに引き出したり、言い逃れできない事実を証人に突きつけて「あわわ…」とさせたりして、有利な展開に持っていくことがよくあります。
実際の裁判でも、まれにそういう展開になることがあります。

しかし、裁判員裁判になると、そんなドラマのような展開はなくなってしまいそうなのです。

裁判員裁判の場合、前回でも触れた下ごしらえに当たる公判前整理手続という制度を裁判の前に行います。
ここでは、争点整理、証拠整理とその採用の可否、審理計画の決定をします。

問題は、弁護人側もこの時点で防御方法のすべてを開示する義務が課せられるということです。

あまり
知られていないかもしれませんが、刑事事件において被告人側すなわち弁護人側が持っている有利な証拠は、検察側に比してほとんどありません。
それは、警察をも従えた巨大な検察・警察側組織に対して、弁護人側は1~2人でしかも通常事件との兼ね合いの中で弁護活動が行われる、という圧倒的な組織的活動的力量の差があるからです。

そういった大きな差があるもとで、防御方法すべての開示を迫られるわけです。

例えば、検察側証人の証言の信用性を突き崩すような、隠し玉を弁護人が持っていても、その開示を迫られる可能性があります。
当然、検察側は事前にその証人に隠し玉にあたる事実の確認を行い、事前準備をして裁判に臨むでしょう。
そうすれば、冒頭のような劇的な展開は望むべくもない…ということになるわけです。

このように見てくると、裁判員には下ごしらえをしてある程度できあがった事実だけを見てもらい、その範囲で考えてもらう、そんな方向性が見えてくるような気がします。

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by lawyer-nishikawa | 2009-08-20 09:28 | 刑事事件のこと

裁判員裁判について 2~バカにしてる?

「裁判員裁判について 2~バカにしてる?」

今回も引き続き裁判員裁判について。

最高裁によれば、裁判員裁判の審理期間は約7割の事件は3日以内に、約9割の事件は5日以内に終了するとされています。
裁判員の負担を軽減しなければならないから、だそうです。

例えば、1審だけで3年7か月、95回の審理に及んだ和歌山カレー事件のような、本格的な否認事件(犯罪事実を認めないものなど)でも同じ、だと。

それが可能なのは「核心司法」を徹底するから、と言います。
「核心司法」とは、争点を真に必要な範囲に絞り込み、証拠を裁判員が理解可能な範囲に厳選し、無駄を省いた証拠調べを実施する、だとされます。
こういった争点絞り込みや証拠の厳選は、裁判員が参加する前段階の準備手続きの中で行われることになります。


そうすると、裁判員が参加する公判段階では、争点が「真に必要な範囲」に絞られ、証拠が「厳選」された後の、いわば下ごしらえ済みの事実しか出てこないことになります。

しかし、きちんとした証拠調べや当事者の主張を聞いていない段階で、裁判員抜きで、「真」の争点を見極め、証拠を「厳選」してしまうことは、結局は職業裁判官のイニシアチブで裁判を進行させ、裁判員はお客様程度に参加してもらうことになってしまうと考えます。
「市民参加」といいながらも、「9人いる合議体にあっては広く精緻な合議を尽くすことは困難」(最高裁)だから、下ごしらえ済みの事実しか出さないという発想がうかがえます。

職業裁判官がきちんと下ごしらえをしておくから、裁判員は簡単なところだけ参加してくれればいいよと言っているようです。
なんとなく、裁判員として参加する市民を馬鹿にしたような姿勢を感じます。

もちろん、被告側としても、そんな下ごしらえを法廷以外の場で行われる訳ですから、法廷できちんとした裁判を受ける権利が制約されることになります。


たしかに、裁判員の負担軽減は必要です。
しかし、それと引き換えに、下ごしらえによる簡略化で事実が切り捨てられ、被告の権利が制約されることはあってはならないのではないか。そう感じます。

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by lawyer-nishikawa | 2009-08-18 11:25 | 刑事事件のこと

裁判員裁判について 1

「裁判員裁判について 1」

かなりのごぶさたになってしまいました。
すみません…。

この間、コメントをいただいていたidamotorsさん、江川麗子さん、レス遅くなってすみません。

いよいよ裁判員制度が始まっています。
弁護士をやっていると、この裁判員制度に賛成か反対か訊かれることがよくあります。
たしかに、裁判に市民が参加することの積極的意義はあると思います。
しかし、結論から言うと、いまの制度では問題点が多すぎて、反対、です。
ただ、即時に撤廃すべきか、いったん休止すべきかといった改善方向については、柔軟に対応すべきだと考えています。

今日は、まず「市民参加」の問題点を。

一般市民の方の裁判員制度に対する受け止めは様々です。
「絶対にやりたくない」から、「ぜひやってみたい」まで。
当然だと思います。
とりわけ、第1号事件の裁判員経験者の「本当にあの答えでよかったのか、今になって疑問や不安を感じる」という言葉にあるように、かなり重い責任を、それまで裁判にすらかかわったことのない人たちに強いるものだから、やりたくない人がいて当然だと思います。
(現在の裁判員経験者の方々が真摯に取り組まれていることには敬意を表しますが)

しかし、現在の制度は(広狭は別として)辞退自由は限定、不出頭に対しては制裁規定、選任手続きの質問を拒んだりしただけでも過料などなど…。「市民参加」を強制する内容となっています。

たしかに、裁判員としての参加が憲法上の「国民の義務」として規定されているのであれば、そのような強制もしょうがないことになります(たとえば、納税の義務など)。
しかし、裁判員としての参加義務は、憲法上、規定されていません。
なのに、参加を強制されることになっています。

例えば、ただ単に「人を裁く立場に立ちたくない」と考えている人の辞退は、認められないことになりそうです。
それは、憲法上原則として禁止される、意に反する苦役や、思想信条の自由への侵害になると思います。

このまま裁判員制度を維持するとしても、一般市民の様々な受け止めを、柔軟に反映できるような制度にしていかなければならないと考えます。
まずは、制度上きちんと広く辞退できる仕組みを創るべきでしょう。

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by lawyer-nishikawa | 2009-08-17 02:09 | 刑事事件のこと

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